好きなところ




「卓也のどこが好きなの?」

奏矢君がいつものヘラヘラした笑みを浮かべて言った。
優しいとチャラいの境界線を行ったり来たりしているような奏矢君だが、ただフェミニストなだけで案外思慮深さも持っていることを知っている。
だからこの質問も茶化すだとかそういう意図でしているのではないことがわかった。
彼の中にある、私と卓也君の恋人という形に、中身を付け加えたいのだ。
そうして納得して、私と卓也君を生温かく見守ろうという算段だ。

「どこが好きなんだと思う?」

だからこそ、私は彼の質問に安っぽく答えはしない。
思考して問答して結論を出すのだ。

「んー、どこだろう?大人っぽいところ?」

確かに卓也君は大人っぽいところがある。
余裕があると言った方が正しいのかもしれない。

「うん、そこも好き」

余裕があって落ち着いていて、いつも私を引っ張ってくれるんだよね、卓也君は。
私が頭を肩に預ければ撫でてくれるし、手を差し出せば抱き締めてくれる。
そうやって卓也君は私を包んでくれる。

「そこも、かぁ。じゃあ他には?」
「奏矢君が考えて」

ハハ、と苦笑を漏らしつつもどうやら奏矢君は楽しんでいるらしく、それじゃあね、と続けた。

「顔とか」
「大正解」
「ええ!?」

奏矢君は冗談のつもりだったらしく、私の答えに目を真ん丸にした。
卓也君の顔はかなり私好み、というかどんぴしゃだった。
クールな顔してて、笑うとニヒル、かと思ったら可愛く破顔したり、ストイックで男前っぷりが表れている、あの顔はかなり好きだ。

「何、は俺の顔が1番好きなのか?」

私と奏矢君がバンドの楽屋で2人で話しているところに入ってきたのは、卓也君だった。

「うわっ、卓也」

奏矢君の声は裏返っており、何だか私と悪いことをしていたかのようだった。
止めてほしい。

「顔も好きなの」
「へぇ」

無表情なのはわざとなんだろうなー、と思いながら彼氏のかっこいい顔に見惚れる。
卓也君はなぜか罰の悪そうな顔をしている奏矢君に「おい」と声をかけた。

「ハルの奴が15分遅れるってよ」
「あー、了解」
「で、なんでこんな話してんだお前らは」

奏矢君はそれに乾いた笑みしか浮かべなかった。
奏矢君から振った話題だというのに、勝手な男だ。
自然と卓也君の呆れた視線は私に向けられる。

「奏矢君が、私と卓也君の仲の良さに嫉妬してるってだけだよ。ほら、奏矢君って彼女この前寝取られちゃったじゃん」
「ああ、そういやそうだったな」
「ちょ、ひどくねお前ら!?まだ俺の傷は癒えてないんだぞ!?こんな露骨に抉るか?」

ううっ、と泣き真似をし出す奏矢君。
というか本気で泣きかけていた。
しかし卓也君と私は無視である。

「それで、俺の顔が好きって話か」
「違うよ。卓也君のどこが好きかって話で、大人っぽいところと顔の2つが上げられたとこ」
「他にあんの?」
「うん、たくさん」

卓也君はクールな顔で大きく温かい笑みを浮かべた。

「私ね、卓也君の全部が好き。嫌いなとこ、ないもん」
「俺もだよ」

卓也君の手のひらが私の頭を撫でた。
奏矢君の「あの、俺の前でいちゃつかないでほしいんですケド」という呟きはやっぱり無視する。
卓也君の顔が好き、大人っぽいところが好き、余裕のあるところが好き、落ち着いているところが好き、笑顔が好き、優しいところが好き、お世話を焼いてくれるところが好き、皮肉っぽいところが好き、クールなところが好き、引っ張ってくれるところが好き、私を好きなところが好き。
他にもいっぱい、好きだ。


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